アウトラインをスタートさせて2番目に製作し、2019年後半にリリースした「ミリタリーType1940」のセカンドジェネレーションです。前作同様に1940年代にイギリス軍に採用された通称“ダーティダース”と、同じく同年代にドイツ空軍の爆撃機のナビゲーター用に作られた“Bウオッチ”を再現。今回はさらに当時の雰囲気に近づけるためにシーガル社のスモールセコンド付き手巻きムーヴメントを使うことで、デザイン的にもより完成度を高めました。
1940年代にイギリス軍に採用された通称“ダーティダース”を再現
今回の新作のひとつである上の写真のモデルは、1944年にイギリス軍向けに開発された管理コード“W.W.W.”こと、通称“ダーティダース”と時計愛好家の間で呼ばれているものを再現しました。
当時イギリス軍は、1社だけでは賄いきれなかったことから製造を複数のスイスの時計メーカーに依頼。製造を担ったのは、オメガ、IWC、ロンジン、ジャガー・ルクルトなど計12社にも及びました。つまりこれが囚人12人の傭兵を描いた1967年の戦争映画「The Dirty Dozen(邦題:特攻大作戦)」の愛称で呼ばれるゆえんとなったのです。
下の写真は私が刊行するアンティークウオッチの専門誌「LowBEAT」に掲載された当時の本物のダーティダースです。メーカーは右上から左に向かって、ビューレン、レマニア、ティモール、ジャガー・ルクルト、シーマ、オメガ、バーテックスの7社で、すべてデザインは同じだったということがこの写真からもわかります。
太めのアラビア数字を使ったインデックスとレイルウエイと呼ばれる線路のようにつながった文字盤外周のミニッツインデックス(分目盛り)、そして太めの時分針に文字盤は敵から目立たないように黒が採用されました。これはつまり、軍管理のもと同一の規格に基づいて製造されたからです。
そして今作では、この究極とも言える当時のミリタリーデザインをより忠実に再現するために、スモールセコンドを6時位置に装備するシーガル社の手巻きムーヴメントをあえて採用しました。このムーヴメントは秒針もちょうど良い位置にあるため、スモールセコンド全体も当時のように大きくすることができるなど、かなり魅力的なデザインに仕上げることができました。
ドイツ空軍の爆撃機ナビゲーターように開発された通称“Bウオッチ”を再現
もうひとつのモデルは、第2次世界大戦中に、ドイツ空軍の爆撃機のナビゲーター用に開発されて実際に使われていた通称“Bウオッチ(Bウーレンとも)”をデザインモチーフにしたタイプです。本来であれば1から12までのアラビア数字が大きく表示されていますが、これの場合は05〜55までの秒表示が大きくデザインされている点が大きな特徴です。そしてこれにはちゃんとした理由がありました。
下の写真も雑誌LowBEATに掲載された当時のBウオッチの写真です。爆撃機が空爆を遂行する際に、事前に偵察機によって目標地点を正確に把握する必要がありました。しかし、偵察自体は夜間が多いため暗闇のなかでも秒単位で正確な経過時間と進路を記録しなければならなかったのです。つまり秒単位での計測を優先して見やすいように秒表示を大きくしたというわけです。時計のケースサイズも50mm径以上とかなり大振りなものでした。
ちなみに左がA.ランゲ&ゾーネ、右がラコによって製造されたBウオッチです。イギリス軍のダーティダースと同じく、軍の規定に基づいて製造されていたため、A.ランゲ&ゾーネ、ラコ、ストーヴァ、ヴェンペに加えて、スイスのメーカーでは唯一IWCが製造を担っていましたが、その見た目はほとんど同じでした。
本来Bウオッチの場合は、上のオリジナルの写真を見てもわかるように、センターセコンド(秒針が時分針と同軸にあるタイプのこと)仕様です。ただ今回アウトラインでは、イギリス軍タイプと同じシーガル社の手巻きムーヴメントを使用しているため、前作と同じスモールセコンド仕様にアレンジしてデザインにアクセントを加えています。ただ、文字盤は前作の黒ではなく、スモーキーグリーンのグラデーションをサンレイ仕上げで表現、モダンな雰囲気をプラスしている点も特徴です。
モデルチェンジでどのように変わったのか?
現在、日本における機械式の汎用ムーヴメントには、不思議なことにスモールセコンドを6時位置に装備したものがありません。そのため前作(上の写真左)ではムーヴメントを10度ほど右に回転して使い、6時位置に来るように調整して製作したためリューズが4時半位置となっていました。
しかも、ムーヴメントの秒針位置の設定が元々センター寄りだったために、1940年代のダーティダースのようにスモールセコンド自体の円の直径を大きくすることができなかったのです。それがシーガルの手巻きムーヴメントの場合は下のほうに付いているため大きくすることが可能となり、当時の雰囲気にグッと近づけられたというわけです。加えて今回はリューズも当時と同じく3時の正位置となった点も大きな違いです。
もちろんドイツ軍タイプもイギリス軍タイプに比べて元々要素が多かったところにスペースが確保されたため、とてもバランスの良いデザインに仕上がっています。
機械式ムーヴメントメーカーの“シーガル”社とは
ちなみに今回採用したムーヴメントメーカーのシーガル社は、中国・天津市に拠点を構え、1955年創業と70年近い歴史をもつ機械式ムーヴメントの専業メーカーです。そのためヨーロッパの多くの時計メーカーに採用され、みなさんがよく知っている海外の人気ブランドもよく使うほどの実績があります。そして現在では複雑機構として知られるトゥールビヨンも自社開発して様々なメーカーに供給していることでも知られる存在です。
その一方で、日本の時計愛好家の間でもよく知られる存在でもあります。1940年代にブライトリングのクロノマットなどに搭載されたスイス・ヴィーナス社のCal.175をベースにした2カウンターの手巻きクロノグラフムーヴメントを現在も製造しているからです。これは1966年にヴィーナス社が倒産した後、Cal.175の製造機械ごと同社が購入、今日までずっと製造を続けているというものです。
“ミリタリーType1940”の七つのこだわり!
1)ドーム型プラスチック風防で古典的な雰囲気を強調
1940年代の雰囲気を再現するために、風防ガラスには当時と同じようにアクリルガラスを採用。しかも、少しふっくらと盛り上がった形のドーム型とすることでグッと古典的な雰囲気を強調しています。
2)軍用らしさを強めるステップベゼル
ベゼルは軍用時計らしく、少し無骨さを出すために階段状に段差をつけたステップベゼルとしました。また、多少メリハリが付くようにと上段のみ鏡面仕上げを施すなど2種類の仕上げを採用しています。
3)2段階処理で数字を立体的にハッキリと
前作同様にアラビア数字のインデックスは立体感が出るように白いペイントでプリントした後、その上に色を加えて文字が焼けたようにエイジング処理を施したスーパールミノバ夜光を塗布しています。そうすることで数字をハッキリさせて視認性を高めました。なお、アラビア数字の夜光は色を混ぜてエイジング処理を施しているため、強い光を当てないと光りません。あらかじめご了承ください。
4)段差を設けて立体的に仕上げる
イギリス軍タイプは、1940年代のダーティダースと同様に大きめのスモールセコンドを再現。さらに細かな同心円状の装飾を施し、文字盤の面よりも若干下げて単調にならないよう配慮しました。
5)グリーンのグラデーションで少しモダンに
ドイツ軍タイプは前作と同じマットな黒文字盤ではなく、スモーキーグリーンのグラデーションを光の加減で色味が変わるサンレイ仕上げで表現し、モダンな雰囲気と遊び心をプラスしました。
6)軍用識別標識の刻印のような雰囲気の裏ブタ
ネジ込み式の裏ブタには防水表示や素材などのスペックの一部を刻印し、1940年代当時の軍用時計に見られた軍用識別標識の刻印のような雰囲気に仕上げました。1〜200までのシリアル番号も刻印されます。
7)スーパールミノバで夜間の視認性を確保
前述したようにアラビア数字のスーパールミノバ蓄光には古っぽく感じるよう色を加えているため光は弱くなっています(写真は撮影用に強い光を与えているため光っていますが、一般的な光ではここまで光りません)。時分針と文字盤外周のミニッツカウンターについてはある程度の長い時間、明るいところで着用するか、強い光を20分以上当てると暗所でも光ります。
8)ファッションとの相性抜群のデザインとサイズ感
実際に着けるとこんな感じです。軍用時計スタイルの時計は、基本的に目立ちすぎずクラシカルで落ち着いた雰囲気のためファッションとの相性はとてもよく、カジュアルなスタイルだけでなくビジネスシーンでもジャケットスタイルならバッチリ決まります。サイズも38mm径に厚さも約11mmと細身の日本人の手首にもすんなり納まるなど着けやすさもポイントです。
【ミリタリーType 1940】
・型番:(左) Ref.YK20231-12(12時間表示)、(右)Ref.YK20231-60(60秒表示)
・素材:(ケース)316Lステンレススチール、(ベルト・日本製)牛革
・サイズ:ケース径38mm、ケース厚11.10mm
・防水性:5気圧防水(日常生活防水)
・駆動方式:手巻き(Cal.TY2705 /17石/毎時2万1600振動(日差±50秒)/最大巻き上げ時35時間パワーリザーブ)/秒針停止なし
・機能:スモールセコンド
・希望小売価格:47,300円(組み立て:日本)
・限定数:各200本
・保証期間:1年間
Ref.20231-12
1940年代にイギリス軍に採用された通称“ダーティダース”を再現した「ミリタリーType1940」のセカンドジェネレーションです。基本デザインは前作と同じものの、ムーヴメントに自動巻きではなく40年代当時と同様に手巻きのスモールセコンドムーヴメントを採用しました。それに伴ってスモールセコンドと全体とのデザインバランスも当時の軍用時計の雰囲気にグッと近づいている点が最大の魅力です。
Ref.20231-60
第2次世界大戦中にドイツ空軍の爆撃機のナビゲーター用に開発されて実際に使われていた通称“Bウオッチ”を再現したタイプです。本来は1から12までのアラビア数字が大きく表示されていますが、05〜55までの秒表示が大きくデザインされているのが大きなポイント。シーガル社の手巻きムーヴメントによってスモールセコンド仕様にアレンジし、さらに前作の黒文字盤ではなく、グリーングラデーションをサンレイ仕上げで表現、モダンな雰囲気をプラスしています。